今回の投稿の対象は、留学先の大学や専門学校を卒業後、引き続き日本に留まって、日本で就職したいと考えている外国人留学生です。
そのような留学生の大多数は、卒業と同時に在留資格を「留学」から「技術・人文知識・国際業務」(以下、「技人国」と略します)に変更し、民間の企業に就職しています。そこで今回の投稿では、「技人国」に関連する次の3つのテーマに絞って概説します。
1.在留資格「技人国」の概要
2.「技人国」の拡大版といえる?在留資格「特定活動第46号」
3.就職浪人(卒業後に就職活動を継続して行う場合)
もちろん、外国人留学生にとって、留学後の選択肢は上記の3つだけではありません。3つの選択肢というのは、大多数の留学生にとって主要な選択肢3つという意味です。
医師や看護師、介護福祉士などの国家資格を得た外国人留学生は、「技人国」以外の在留資格を付与されます。また、就職せずに起業したい卒業生は、在留資格「経営・管理」の取得を目指すことになります。起業に関心のある方は、「スタートアップ ビザ」超入門~その1、2、3を参照してください。
1.在留資格「技人国」
(1)「技人国」が対象とする仕事の内容
いわゆるホワイトカラー(頭脳労働者)向けの在留資格です。適用範囲が広いので、多くの留学生が聞いたことがあるのではないでしょうか。
この在留資格は、その正式名称「技術・人文知識・国際業務」が示すとおり、3つの職業分野を含んでいます。以下、それぞれについて簡単に見ていきましょう。
「技術」:電気・電子、機械工学、情報技術(IT)*、化学、物理学、生物学、農学などの自然科学を大学等で勉強した外国人であって、就職先の企業で、その専門知識を活かした仕事に就くこと。
*情報処理技術については、特定の試験に合格するか、特定の資格を有していれば、大学等を卒業している必要はありません。
「人文知識」:法律学、政治学、経済学、経営学、社会学、文学、言語学などの人文科学を、大学等で勉強した外国人であって、就職先の企業で、その専門知識を活かした仕事に就くこと。
「国際業務」:(i) 外国で育ったからこそ持っている知識や感性を必要とする仕事について、3年以上の実務経験を有する外国人が、就職先の企業で、その専門知識や専門能力を活かした仕事に就くこと。(ii) ただし、大学を卒業した者が就職先の企業で、翻訳・通訳の仕事を行う場合は、実務経験は不要。
今回のテーマは、日本に留学中の外国人留学生を対象にしていますから、「国際業務」に関しては(ii)に該当する外国人のみを対象として話を進めます。
さて、以上の3つの職業分野において、共通する要件は何でしょうか? 3分野とも「企業」、「大学等(あるいは大学)」という語が出てきます。以下、この二つのキーワードについて説明します。
(2)就職先の企業について
留学中にちゃんと勉強せず、資格外活動許可で許された時間を超えてアルバイトばかりしていたような場合は、在留資格の「留学」から「技人国」への変更が許可されない原因が、留学生側にあることは明らかでしょう。しかし、在留資格変更許可がされない原因が企業側にあることも多々あります。
企業側の原因には、主に次の四つがあります。
(i) 従事することになる仕事の内容が「技人国」の求める基準を満たしていない。冒頭にも書いたように、「技人国」はホワイトカラー(頭脳労働者)の仕事を対象にしています。ですので、実際の業務内容が現業(現場での作業)*の場合は許可されません。ただし、現業の仕事が社内研修の一部であって、期間が決まっているような場合には、認められることもあります。
*「現業」とは、特段の技術や知識を必要としない業務、反復訓練によって習得可能な業務を指します。ホテルの荷物運びや客室の清掃、レストランの給仕、工場での組立て作業などは現業に該当します。
(ii) 留学中に学んだ知識と従事する仕事との関連性も重要です。例えば、専門学校でアニメを勉強したのに、ホテルで通訳として働くといった申請は不許可になる可能性が高いでしょう。
企業からオファーされた業務の内容について、留学生は各自でよく確認してください。
(iii) 日本人が従事する場合と同等か同等以上の報酬を受けること。特に説明は不要と思いますが、何が「報酬」に該当するかについて確認してください。実際にかかった費用を会社が払ってくれるようなもの、例えば、交通費の支給は報酬ではありません。
(iv) 就職先の会社の安定性、将来性 折角就職しても、その会社がすぐに倒産してしまったり、経営難に陥って給料の支払いが遅れたり止まってしまったら、その外国人は日本で安定した生活を送ることが出来なくなり、最悪の場合、不法滞在者になってしまうかもしれません。
そのために、出入在留管理局(入管)は会社の規模や業績について精査します。会社の規模が小さいほど、あるいは新しい会社ほど、いろいろな資料の提出が必要になります。留学生を採用する企業としては、入管を納得させるに十分な資料を揃えなければなりません。
(3)大学等とは
日本にはいろいろな学校がありますが、大きく分けると「大学」系と「専修学校」系に分かれるといってよいでしょう。
「大学」系:大学、大学院、専門職大学、短期大学、高等専門学校(高専)など。全体としてより学問的。
「専修学校」系:専修学校一般過程、専修学校高等課程(高等専修学校)、専修学校専門課程(専門学校)の3過程の総称。職業に必要な能力の習得を目的とする。
上記の「技人国」3分野のうちの「技術」と「人文知識」については、「大学」系学校を卒業した者および専修学校専門課程を修了した者が、許可の対象者になります。
自分の学校が「技人国」の対象になるか否かよくわからない場合は、学校の事務局に問合せるか、ご遠慮なく当事務所に質問してください。
なお、留学中に学んだ知識と従事する仕事との関連性について上述しましたが、以下に補足します。
関連性は、大学卒の場合は比較的緩やかに判断されます。しかし、専修学校卒の場合には、かなり厳密に審査されますので、注意が必要です。その理由として、大学は専門分野の探求とともに広範な教養を習得する場所と定義されていますが、専修学校はその目的が、職業に必要な知識の習得に限定されていることにあります。
2.本邦大学等卒業者の就職「特定活動」第46号
(1)頭脳労働と現場作業が混ざった仕事のための在留資格
「特定活動」第46号は、日本の大学等を卒業した外国人留学生が、「技人国」が求める業務内容から外れる業務にも就くことができる資格です。
「技人国」に該当する業務内容は、上述したとおり、大学等で勉強した自然科学や人文科学の知識を必要とする頭脳労働に限定されています。しかし、現実の仕事には、頭脳労働と現場での作業(現業)が混ざっているものがたくさんあります。
例えば、ホテルでフロント業務(これは「技人国」に該当します)に従事すると同時に、コンシェルジュやドアマンとして客へのあいさつや荷物運びなども行うケースが考えられます。
あるいは、製造会社の工場で製品の改良に取り組みながら(これは「技人国」に該当します)、自分自身も生産ラインに入って作業をするようなケースもあります。
会社の規模が小さくなればなるほど、ひとりで複数の業務をこなさなければならないことが多くなるでしょう。
「特定活動」第46号は、このような「技人国」の業務と現業が混ざった仕事をカバーするために創設された比較的新しい在留資格です。
今までは、このような仕事に対応する在留資格が存在していなかったため、外国人はこれらの仕事に就くことが出来ませんでした。しかし、労働人口減少が急速に進む中にあって、外国人もこれらの仕事ができるようにして欲しいという要請が、産業界から出てきました。そこで、「技人国」の求める要件を緩めた在留資格として、2019年に在留資格「特定活動」第46号が創設されたというわけです。
(2)しかし、対象者の要件は「技人国」より厳しい?
「特定活動」第46号によって、外国人に新たな職域を開放する一方で、これらの仕事に就く外国人に求められる要件は、「技人国」よりかえって難しくなっています。
これは一体、どういうことでしょうか。外国人の受入れに消極的で保守的な人々への配慮なのかもしれません。しかし、対象者を絞り過ぎてしまっては、折角、新たな在留資格を創設しても十分に活用されないのではないかと心配です。
ともかく、対象者に求められる要件を具体的に見ていきましょう。
学歴要件:短期大学(短大)又は高等専門学校(高専)の場合は、単にこれらの学校を卒業しただけでは足りず、それぞれ専攻科を修了して、「学士」の学位を取得する必要があります。
大学や大学院の卒業生は問題なく対象者になります。
専修学校卒業生については、「認定専修学校専門課程」*(たんなる専修学校専門課程ではありません)を修了し、高度専門士の称号を得た者は対象になります。
*詳しくは、文部科学省による「専門学校(専修学校専門課程)における「外国人留学生キャリア形成促進プログラム」認定(令和5年度)について」を参照してください。
日本語能力:たんに作業指示を理解するというような受動的な日本語力では不十分です。日本語を用いて円滑に双方向のコミュニケーションができるハイレベルの能力が求められます。日本語能力試験N1又はBJTビジネス日本語能力テストで480点以上が必要です。
3.就職浪人(卒業後に就職活動を継続して行う場合)
(1)卒業後1年目の就職活動
大学等を卒業する前から就職先を探していたものの、良い会社が見つからないうちに卒業してしまった。このようなケースで、引き続き日本に留まって就職先を探すことを「就職浪人」といいます。浪人とは、昔の日本で、どの殿様にも仕えていない侍のことをいいました。どの会社にも就職していない(=仕えていない)ので、就職浪人というわけです。
就職浪人は、もう留学生ではないので、在留資格を「留学」から就職活動を継続するための「特定活動」に変更する必要があります。ただ、出入国在留管理局(入管)は、たんに就職浪人だからといって在留資格「特定活動」を許可してはくれません。卒業した大学等からの推薦状や就職浪人中の生活費が十分にあることの証明などが求められます。
許与される在留期間は6か月で、さらに1回延長できるので、合計1年間は就職活動ができます。
ちなみに、この「特定活動」資格は、同じ「特定活動」でも上述の第46号とは違って番号はありません。就職浪人のための「特定活動」資格は、告示外*のものです。
*在留資格「特定活動」は、新しい職業(例えばデジタルノマド)や一時的な仕事(例えばオリンピック開催にともなう仕事)、その他イレギュラーな在留理由のための在留資格です。それらの一部は法務大臣の告示というリストに掲載され番号が付いています。このリストにまだ載っていないものが「告示外」と呼ばれます。
(2)卒業後2年目の就職活動
卒業後1年経ってもまだ就職先が見つからないのは、かなりのピンチでしょう。しかし、地方公共団体が実施する就職支援事業に応募してインターンシップ参加を含む就職活動を行う場合には、さらにもう一年「特定活動」(告示外)の資格が得られます。この場合も初回の在留期間は6か月で、1回の更新が可能です。
この2年目の就職活動は、上述のとおり、地方自治体が実施する就職支援事業に参加することです。地方自治体としては、外国人就職浪人の就職活動を支援することによって、その外国人にその地方自治体の域内で就職してもらい、そのことが地域経済の発展に寄与することを期待しているわけです。
この目的に沿うように、出入国在留管理局(入管)は、就職浪人に2年目の在留許可を与えるに当たって、次のような点を考慮します。
(i) 地方自治体が実施する就職支援事業が適切に運営され監督されているか?
(ii) 地方自治体は、域内の企業が行う各々のインターンシップ事業を適切に管理監督しているか?
(iii) 地方自治体は、インターンシップ事業に参加する就職浪人生の資質ややる気を面接などを通して確認しているか?
詳しくは、出入国在留管理庁のウェブサイト「大学等を卒業後就職活動のための滞在をご希望の皆様へ」を参照してください。
4.追加情報
(1)内定後から入社まで
内定(就職先の会社が決まること)は得たけれども、卒業から入社(正式にその会社に雇用され勤務を開始すること)まで間が空くことがあります。例えば、在留資格「留学」の期限が4月30日に切れ、一方、入社は10月1日に決まっているとします。この場合、5月から9月までの5か月間は勉強も仕事もしない空白期間になりますが、この期間中も引き続き日本に在留していたいなら、在留資格「特定活動」の取得が可能です。
ただし、入社は内定後1年以内であること、就職先の会社が入管に誓約書(間違いなく期日に入社させること)を提出することなど、満たすべき要件がありますので、出入国在留管理庁のウェブサイト「大学等の在学中又は卒業後に就職先が内定し採用までの滞在をご希望のみなさまへ」で詳細を確認してください。
(2)クールジャパン:日本料理の海外普及人材育成
「クールジャパン」(Cool Japan)という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか? 最近あまり使われなくなったようですが、日本の文化、特にアニメやファッション、料理などがクール(カッコいい)だとして海外に向けて積極的に発信する活動を指した言葉です。
この「クールジャパン」運動の一環として、農林水産省が「日本の食文化海外普及人材育成事業」を実施しています。
どういう内容かというと、「調理又は製菓の専門学校等を卒業した外国人留学生が、日本国内の飲食店等で働きながら技術を学べる制度」であって、在留資格「特定活動」が付与され、最長5年間の在留が認められるというものです。
農林水産省としては、日本料理の外国人調理師をたくさん養成し、それぞれの本国で日本料理を普及させてもらいたいと考えているわけです。詳しくは、農林水産省のウェブサイト「日本の食文化海外普及人材育成事業について」を参照してください。
(3)海外の大学等を卒業後に日本語学校に留学した外国人の就職活動
卒業後の就職活動を支援する制度は、日本の大学等の卒業生ばかりではなく、海外の大学等を卒業した後に日本語学校*に留学した外国人にも2014年**から適用されています。
*法務省令で入管に認定された日本語学校に限ります。
**この制度は、従来は内閣府の創設した「国家戦略特別区域」にのみ適用されていましたが、2014年から日本全国どこでも適用されるようになりました。
この制度を利用する外国人留学生に在留資格「特定活動」を許可するに当たって、入管は次のような要件を満たすことを求めています。
(i) 日本語学校在学中から就職活動を行っていること
(ii) 卒業後も在籍していた日本語学校と定期的に面談し、就職活動の進捗状況を報告し、また学校側から就職活動に関してアドバイスを受けること
(iii) 在籍していた日本語学校から推薦状を受けていること
(iv) 就職活動を継続するために充分な資力を有していること
詳しくは、「国家戦略特別区域海外大学卒業外国人留学生の就職活動促進事業実施要綱 」を参照してください。
◎さて、今回の投稿「留学後の就職-3つの選択肢」は以上で終わります。多少はお役に立てましたでしょうか?思い切って簡略化した内容ですので、きっとご不明な点、もっとお知りになりたい点があるのではないかと思います。分からないこと、もっと知りたいことがありましたら、ご遠慮なく連絡してください。
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